ホーム / 恋愛 / 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない / 第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい17

共有

第三章 体が熱くなってくるのは、アルコールのせい17

last update 最終更新日: 2025-01-17 14:33:31

次の日も朝から収録があって家に戻ったのは深夜一時過ぎだった。

部屋に入ってビールを流し込んだところでチャイムが鳴る。

美羽が来たのかと思ってインターホンを覗くと寧々が立っていた。

ドアを開けてやると中にズカズカ入ってくる。

俺と美羽のことをおかしくかき乱しているのは、間違いなく寧々だろう。

ソファーに座った寧々は一段と機嫌が悪そうだ。

「大樹はさ、誰の力で今の地位を確率したと思ってるの?」

「単刀直入に言えば?」

コーヒーを出してあげると、寧々は大きなわざとらしいため息をつく。

「あたしのパパがCOLORを番組に使ったから、知名度が上がってきたんでしょ?」

「色んな人の協力があって今があるのはたしかなこと。感謝してるよ」

「じゃあ、あたしと結婚して! あたしは大樹のことが大好きなのっ!」

立ち上がって俺に抱きついてきた寧々を、引き剥がす。

今までも思わせぶりな態度は一度もしたことがなかったのに、どうしてこんなに俺に執着するのかわからない。

「俺は寧々をそういう対象に見てない」

寧々をじっと見つめて少しきつい口調で言うと、涙目で睨んできた。

「どうして振り向いてくれないの? あたしの何が悪いの?」

「寧々が悪いんじゃなくて、俺は美羽を愛してるんだ。他の女性を好きになるなんて考えられない。理解してくれ」

諭すように語りかけるが、寧々は息を荒くして顔を真っ赤にして怒りまくっている。

「ありえない。もう、絶対に許さないんだからっ!」

そして、俺の部屋を出て行った。美羽に災難が襲いかかるかもしれない。

だけど、絶対に守り切ってみせる。

ロックされたチャプター
GoodNovel で続きを読む
コードをスキャンしてアプリをダウンロード

関連チャプター

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで1

    第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで今日はクリスマス。大くんは生放送があって遅くなるみたいだけど、夜を一緒に過ごすことにしていた。クリスマスらしいものを買ってお邪魔しようと思っている。一緒に暮らそうと言ってくれたのだけど、ちゃんと私の両親に挨拶を済ませてから同棲をすることにした。「千奈津はデートなの?」「もちろんよ」化粧室で入念に化粧をしている姿を見て心が温かくなる。私も、今日は大好きな人に会えるのだ。そう思うと嬉しくてつい顔が緩んでしまうけど、誰にも言えない恋愛だ。「楽しんでね」「美羽は? デートの予定とかないの?」「あぁ、うん。ケーキくらいは食べようかな」「本当? 最近すごく綺麗になったから彼氏ができたのかと思うんだけど。今度ゆっくり聞かせてね。お疲れ様」颯爽と去って行く千奈津を見送る。言えなくてごめんね。私も軽く化粧を直した。会社から出ると寒くてブルっと震える。ベージュのマフラーで鼻の下まで隠す。そして手を擦り合わせた。小さなケーキと生ハムのサラダとチキンを購入した。クリスマスのイルミネーションがキラキラしていて綺麗。飲み物は必要ない。大くんは芸能界の仕事をしているからか、ワインなどをプレゼントされることが多いみたいだ。歩きながら母に電話をする。「メリークリスマス、お母さん」『なによ、改まって』「年が明けたら大くんと挨拶に行っていいかな」『ええ』覚悟をしているような声だった。「どんなにバッシングされても彼と生きていくって決めたの」『美羽がそう決めたなら、それでいい。しっかりと貫きなさい』「うん」電話を切って息を大きく吸い込んだ空気は、すごく冷たくて胸に染みこむ。気持ちがシャキッとする。大くんのマンションに向かって歩いていると、気配を感じて後ろを振り向いたけど誰もいない。「気のせいだよね」少し早歩きで歩いて行くが、この前も誰かに見られているような気がした。マンションについて急いで大くんの部屋に入りほっとする。テレビをつけるとクリスマスの音楽番組がやっていた。今日はCOLORも出演するらしいが、司会は大くんがやっている。テレビの中の大くんはハキハキと滑舌のいい口調で話していて、完璧に仕事をこなしていく。大くんが帰って来たらすぐに食べることができるように、お皿にサラダを盛って冷蔵庫にしまっ

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで2

    『美羽、終わったよ。これから帰るからね』大くんのメールにほっこりした気持ちになり、そわそわと待っていた。イベントがあるとついつい考えてしまうことがある。ここに、はながいたらきっと楽しかっただろうなって。何年過ぎてもやっぱり思い出してしまうのだ。それほど、私は大くんを愛していて産みたかった。しばらくしてドアが開く音が聞こえ玄関に迎えに行く。「大くん、お帰り」嬉しくて抱きつくと大くんも力いっぱい抱きしめてくれる。「会いたかったよ。テレビ見てたよ」「よしよし、美羽。いい子で。待ってたんだな」「今日の大くんも素敵だったよ」大くんの香りを胸いっぱいに吸い込んでハッピーを補充する。大くんに抱きしめられるのが一番の幸せだ。「美羽。俺も美羽に会いたくてたまらなかった」「大くーんっ」頬を胸にうずめる。「おーい。いつまでいちゃついてんの?」男性の声が聞こえてビクッとなる。大くんから離れて大くんの後ろを見ると、黒柳さんと赤坂さんが立っていた。「お邪魔します」赤坂さんが甘ったるい笑顔を向けてくる。二人が来るなんて聞いてない。「あまり邪魔はしないから。少しだけお話させてもらってもいいかな」赤坂さんが言うと黒柳さんは「入るぞ」とズカズカ中まで入ってきた。ソファーに座る黒柳さんと赤坂さん。過去に会ったことがあるけど、二人ともオーラを放っている。大くんが二人にコーヒーを出すと黒柳さんが口を開いた。「過去のこと……謝りに来た。苦しい思いをさせて申し訳なかった」「ごめんなさい。今日は三人で仕事だったから一緒に来たんだ。クリスマスなのに悪かったね」赤坂さんも一緒に頭を下げてくれた。「正直、キミと大樹が再会した時は愕然としたんだ。でもさ自分だけの利益を考えていたと反省した。これからは応援する。芸能人である前に人として生きていきたいと思ったんだ」きっと私と大くんのせいで二人には色んな負担をかけてしまったと思う。色んな人に迷惑をかけながらだったけれど、大くんを愛してしまった。こんな私達を認めてくれたことに感謝しないといけない。「あの、ありがとうございます」頭を下げると二人はクスクスって笑いながら大くんをいじる。「大樹。美羽さんのこと可愛くてしかたがないだろう? いろいろあると思うけど負けんなよ」「あんがと」「邪魔しちゃ悪いし。帰るわ」

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで3

    グラスに赤ワインを注いでケーキとチキンとサラダを用意した。大くんとこうやって幸せなひと時を過ごせると思っていなかったから、ジーンと熱いものが込み上げてくる。たとえ抱き合えなくてもいい。心が繋がっていればそれでいい。「料理が上手だったら手作りにしてあげたかったんだけど、ごめんね」「美羽と過ごすことができればそれでいいんだよ」大くんがニッコリと笑ってくれるから、ものすごく癒される。「年末のテレビ出演が終わると少し落ち着くから、美羽の実家に挨拶に行きたいんだ」「うん。わかった」「緊張するけど……頑張るから」「うん」じっと見つめるとニッコリしてくれた、立ち上がった大くんは寝室に向かって歩き出し、何かを手に持って戻ってきた。「これ、クリスマスプレゼント」「え……?」どうぞと言って渡してくれたのは小さな四角い箱。パカっと蓋を開けて中を見るとダイヤモンドがついたリングが入っていた。「こんな高価な物……もらえないよ」困った表情で大くんを見ると、大くんは王子様のように片足をついて跪く。そして真剣な表情で見つめられる。あまりにも熱い視線に頬が焦げそうになった。「美羽。俺と結婚してください」「え…………」驚いて息が止まりそう。「もちろん、今すぐにという訳にはいかないけれど。社長も認めてくれた。事務所と相談して一番いいタイミングで入籍したいと思っている。必ず幸せにするから」じわじわと込み上げてくるこの気持ちは何なのかな。きっと歓喜していて全身を駆け巡っているのかもしれない。目頭が熱くなり、私は大くんの胸にしがみついた。「こんな私でよければ、よろしくお願いします」抱きとめてくれる大くんは、私を包み込んでくれる。私の良いところも悪いところも全部を受け止めてくれる人はこの人しかいないだろう。「美羽、一緒に眠ろう」「うんっ」唇が唇を塞ぎ甘いキスをする。赤ワインの渋みが残った口内をお互いに味わう。大くんのキスは極上のスイーツを食べているようで幸せだ。大くんと私は一緒にベッドに倒れ込む。程よく酔っていてふわふわしながら大くんの体温を感じつつ目をそっと閉じた。「大くんと一生一緒に居たい」「俺も」向き合って抱きしめながら眠りについた――。朝になって目を覚ますと大くんは私をじっと見ていた。恥ずかしくて布団の中に隠れようとする

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで4

       +年が明けて私と大くんは実家に挨拶に行くことになった。別々に行かなきゃいけないのは仕方がない。結婚する前の大くんが女性と車に乗っているところを撮られてしまったら大変なことになる。電車で向かう私。大くんの事務所社長が結婚を認めてくれたことには驚いた。寧々さんのお父さんと話し合いをしてくれたらしい。当初はCOLORの番組起用を減らすと言われたそうだけど、数日後にやっぱりなんか違う気がすると言ってくれたみたいなのだ。『娘が可愛いが言うことを聞いていられないほどCOLORは成長した。我局だけCOLORを利用しないのはマズイ』と言って考えを改めてくれたみたいだ。大くんが教えてくれたけど、甘藤とCM契約を切ったのも、宇多サイドの脅しがあってのことだったらしい。今後はまた機会があれば契約をすると言ってくれたみたいだ。「ただいまー」玄関を開けると懐かしい匂いがする。実家に一足早くついていたのは大くんだった。昼間なのにビールを飲んでいるお父さんと大くんの和気あいあいとした姿が目に入った。「お帰り美羽」とお父さんに言われ「ただいま」と言ってから大くんを見た。大くんは緊張しているみたいだ。「座りなさい」父の言葉に素直に座るとお母さんが私にお茶を出してくれて、大くんの隣に座った。「紫藤君がここに来た時、事務所社長さんから電話をもらったんだ。過去にはいろいろあったけど、父さんと母さんは美羽が選んだ道を信じるよ。幸せになりなさい」その言葉が胸に染みて涙が溢れそうになる。「孫が楽しみだ」との言葉に私は笑顔が引きつらないようにした。大くんも切なそうな顔をしている。でも、今ここで伝えることではないと思って口をつぐんだ。隠すつもりはない。私は……いつか絶対に大くんの赤ちゃんを授かる日が来ると思っている。「紫藤君のご両親にも挨拶に行かないとな」「いえ、両親と兄は亡くなっているんです」「そうだったのか」「はい。ずっと孤独だった心を美羽さんが救ってくれたんです。美羽さんに出会っていなければ今の自分はないと思います。過去に悲しい思いをさせてしまいましたが、未来は幸せに溢れた時間にしていきます」大くんはそこまで言い終えると床に正座をした。「結婚させてください」真剣な眼差しで言うと、両親に頭を下げてくれた。父は凛々しい声で「よろしくお願いします」

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで5

    ランチの時お手洗いに行くと女子社員が化粧を直しているところだった。私も鏡を出してリップを塗り直していると、チラチラと見られている気がした。――なんだろう。廊下に出て行った二人組の女子社員の「あの子だよね」なんて言った声が聞こえてきた。私のことを噂している気がする。何かやらかしてしまっただろうか。でも関わりのない人に噂されて気持ちが悪い……。なんとなく気持ち悪い気分で過ごしていた。そう言えばランチ中も千奈津が何か言いたそうな顔をしていたけど、関連があるのだろうか。就業時間を終えると人がいなくなっていく。残業しているのは、千奈津と私と杉野マネージャーの三人だけしか残っていなかった。「美羽」千奈津に声をかけられた。「ん?」「美羽ってさ芸能界の人と付き合ってたこと、あるの?」カタカタとキーボードを打っていた手を止めてしまう。どうしてそんなこと聞いてくるのだろうか。視線をゆっくり上げると杉野マネージャーと目が合った。「ど、どうして?」冷静を装いつつ千奈津を見る。「なんか、マスコミみたいな人が聞き込みをしているようだよ」「聞き込み?」「甘藤の社員と大物スターの過去にあった出来事というか、過去の恋愛事情を調べているらしい。で、なぜか美羽の名前で調べているみたいよ」そういうことだったのか。だからランチの時お手洗いにいた社員も噂をしていたのかもしれない。マスコミって本当によく調べていてすごい。ある意味怖いとさえ思ってしまった。「でもねー。まさか、美羽がそんなのありえないよね。どうしてそんな変な噂が流れたんだろうね」明るい声で言った。「さー仕事、仕事」千奈津はキーボードをタイピングしはじめた。私も画面を見つめるけど力が入らない……。過去を隠して生きていくなんて辛い。悪いことは一切していないのだから堂々と生きていきたいと思うのに、言えない。もしも、私が言ってしまえば大くんに迷惑をかけてしまう。大好きな人を悲しませたくない……。杉野マネージャーは何も知らないふりをしてくれた。千奈津……言えなくてごめんね。仕事を終えて会社を出ると男の人が近づいてきた。私とは関係ないと思って避けて歩こうとすると、目の前に立たれる。「あの、すみません」「……はい?」「紫藤大樹さんとは、どういう関係なんですか?」

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで6

    コートを羽織っているまだ二十代であろう男性は、ここに張り付いて待っていたのかもしれない。大くんの名前を出されて恐ろしい気分になる。無視をしてその場から去って行こうとする私の背中に冷たい声が投げられた。「子供を過去に殺したのに、大物になったからまた近づいたんですか?」思わず立ち止まってしまうと、男性は近づいてきて顔を覗きこんできてニヤリとされた。「図星、ですか?」違うと言いそうになったけれど、そんなことを言うと過去に関係があったと肯定するようなものだ。「人違いではないですか?」グッと堪えて言い返す。どうにかバレないようにと思うと、鼓動が激しくなり、背中に汗をかいてしまう。男の人は口元に笑みを浮かべる。「写真、何枚かあるんですよ。それに情報提供もしていただいたんです」「とにかく、私は関係ありませんから」「へぇー」なんとか振りきって歩くけれど、すごく気持ち悪くてタクシーで自宅に帰った。家の中に居ても誰かに監視されているような気持ちになる。大くんに相談しようかと思うけどあまり負担をかけたくないから我慢しなきゃ。そんなことを考えていると大くんから電話が着た。私の不安な気持ちを察知しているようなタイミングだった。『美羽、今日は来ないのか?』「あ、うん。家に取りに行くものがあって……」『…………』「…………」『なんか、様子がおかしいけど、どうしたの?』鋭いな、大くん。それとも私がわかりやすい性格をしているのかな。「いつも通り元気だよ」笑って誤魔化すと、電話越しで大くんは悲しそうに、ため息をついた。『お願いだから俺から離れようとか、変なこと考えるなよ』「うん」『俺が美羽を守るからなんでも言えよ』「わかった」愛しの大くんの声を聞いて涙が出そうになる。本当は今すぐにでも会いたいけど外に出るのが怖い。私は一人でなんとか耐えていた。

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで7

    それからも、なんとか出社は続けていたのだけど、社内では私が芸能人の子供を堕ろしたことがあると噂が流れていた。堕ろしたんじゃないと否定したいのにできずに過ごしている。しかも、相手が大くんだと気がつかれていたのだ。勘のいい社員は私と大くんがリッチマンゴープリンのコマーシャルで一緒に仕事をしていたことと関連付けたり、COLORとの仕事の契約がドタキャンになったことを持ち出してくる人もいた。社内にもCOLORのファンはいるようだし、社外に漏れるのも時間の問題かもしれない。ランチを終えて部署に戻るとデスクにメモが置いてあった。その内容を見て笑顔を消してしまう。『不潔女』と書かれていたのだ。「美羽……大丈夫?」千奈津が心配そうに覗きこんでくる。笑顔を作れずに、固まってしまう。そこに杉野マネージャーが近づいてきた。手には手紙らしきものを持っている。「総務に届いたんだと。総務のマネージャーが『これって噂になっている件じゃないの?』と言って渡してきたんだ」中身を開いてみると物凄い誹謗中傷が書かれていた。「お客様の問い合わせページなんて書き込みが今日で二十件だってよ」もう、社外でも噂は広まっているのだ。尾びれも背びれもつけた噂は、世間を飛び回っている。なんて恐ろしいことなのだろう。「初瀬……なんで黙ってんの?」杉野マネージャーは責めているわけじゃなくて心配そうな表情をしている。千奈津もだ。「あの。今日の夜、空いていますか?」「ああ」「千奈津も」「うん」「聞いてほしい話があります……」もう千奈津と杉野マネージャーには、黙っておくことができない。会社にまで迷惑をかけているのだから。仕事を終えた時伝えようと決意をした。

    最終更新日 : 2025-01-17
  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   第四章 香りを胸いっぱいに吸い込んで8

    仕事を終えると、半個室がある居酒屋に直行した。私の前に座っている杉野マネージャーと千奈津。重苦しい空気で包み込まれているような気がする。「話ってなに?」「今まで黙っていてごめんなさい。……私、過去に紫藤大樹さんとお付き合いしてたことがあります」笑顔が消えた千奈津。杉野マネージャーは、やっぱりかという顔をしている。「驚かせてごめんなさい」「じゃあ、子供を堕ろしたって噂も本当なの?」私は頭を必死で横に振る。「出産は事務所の人に反対されていたけれど、私は何があっても産む決意でいたの。たとえ、彼と一緒になることができなくても……」赤ちゃんを失った時の悲しみは、忘れることができなかった。最近はあまり夢でうなされることはないけど、あの日のことを思い出すと胃がキリキリと痛んで涙が溢れそうになる。千奈津は女性として悲しみをわかってくれた表情をしていた。「当時は売り出し中だったから、自ら会わない道を選んだの。彼の才能を潰しちゃいけないと思ってね。なのに……十年ぶりに再会したの」「リッチマンゴープリンでね?」コクリとうなずいて言葉を続ける私。「封印した過去だったのに、運命のいたずらかと思った。お互いに忘れようと思っていたのに無理だった」「そうだったのね」千奈津は、噛みしめるようにうなずいた。「で、初瀬がこうやって苦しんでいるのに紫藤さんは動いてくれないのか?」杉野マネージャーは、こういう時も心配してくれる本当に優しい上司だ。「ちゃんと話そうと思っています。ご迷惑かけて申し訳ありません」「そのほうがいい。早く相談して健やかに毎日を過ごせるのが一番だと思うぞ」「はい」「そうだよ。美羽は悪くないんだから」二人に打ち明けることができて少し気持ちが落ち着いた。

    最終更新日 : 2025-01-17

最新チャプター

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』86

    「赤坂さんのことが好きでも……両親の言うことを聞かなきゃって思って」「ってかさ、なんで早く言わなかったんだ?」苛立った口調に怖気づきそうだった。「考えて悩んで……私もそう思ったから。それに、これ以上迷惑をかけちゃいけないって思ったの」「迷惑だと? ふざけんじゃねぇぞ」乱暴に私を抱きしめた。赤坂さんの胸に閉じ込められる。かなり早い心臓の音が聞こえてきた。「俺のこと信じろって」「赤坂さん。ごめんね」「バカ」涙があふれ出し、私は赤坂さんにしがみついた。赤坂さんはもっと強く私を抱き止めてくれる。「でも、好きな気持ちには勝てなかったの」「………」体を起こしてキスをされた。すごく優しいキスに胸が疼く。私のボブに手を差し込んで熱いキスに変わっていく。舌が絡み合い、濡れた音が耳に届いた。唇が離れると赤坂さんは今までに見たことない瞳をしている。「久実、愛してる」「……私も、赤坂さんのことが好き」「俺もだ」「今まで本当にごめんなさい」「大好きっ、赤坂さん、大好き」「うん。俺も」私も赤坂さんのために自分のできる限り尽くしたいと思った。守ってもらうだけじゃなくて、守ってあげたい。頭を撫でられて心地よくなってくる。「両親に認めてもらえるように……頑張るから」赤坂さんはつぶやいた。だけど、すごく力強い言葉に聞こえた。「近いうちに会いに行きたい」「うん………」「やっぱりさ、思いをちゃんと伝えて理解してもらうしかないから」「そうだね……」「俺はどんなことがあっても久実を離さないから。覚えてろよ」頼もしい赤坂さんに一生着いて行く。私は赤坂さんしか、いないから。きっと、大丈夫。絶対に幸せになれると思う。私は赤坂さんのことが愛しくてたまらなくて、自分から愛を込めてキスをした。エンド

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』85

    そして、四日になった。前日から緊張していてあまり眠れなかった。化粧をして髪の毛をブローした。リビングにはお母さんがいて、テレビを見ていた。「友達と会ってくるね」「気をつけてね」「行ってきます」家を出ると、まだ午前の空気は冷たくて、身震いした。手に息を吹きかけて温める。電車に向かって歩く途中も緊張していた。ちゃんと、思いを伝えることができるといいな……。赤坂さんに恋していると気がついたのはいつだったんだろう。かなり長い間好きだから、好きでいることがスタンダードになっている。できることなら、これから一生……赤坂さんの隣にいたい。マンションに到着し、チャイムを押すとオートロックが開いた。深呼吸して中へ入った。エレベーターが速いスピードで上がっていく。ドアの前に立つといつも以上に激しく心臓が動いていた。チャイムを押すと、ドアが開いた。「おう」「お邪魔します」赤坂さんはパーカーにジーンズのラフな格好をしているが、今日も最高にかっこいい。私は水色のセーターとグレーの短めのスカート。ソファーに座ると温かい紅茶を出してくれて隣にどかっと座った。足はだいぶ楽になったらしくほぼ普通に過ごせているようだ。「久実が会いたいなんて珍しいな」「うん……。話したいことがあって」すぐに本題に入ると、空気が変わった。赤坂さんに緊張が走っている感じだ。「ふーん。なに」赤坂さんのほうに体ごと向いて目をじっと見つめる。何から言えばいいのか緊張していると、赤坂さんはくすっと笑う。「ったく、何?」緊張をほぐそうとしてくれるところも優しい。赤坂さんは人に気を使う人。「私……、赤坂さんのことが好きなんです」少し早口で伝えた。赤坂さんは顔を赤くしているが、表情を変えない。「うん……。で?」「好きなんですけど、交際するのを断りました。その理由を話に来たんです」「……そう。どんな理由?」しっかり伝えなきゃ。息を吸って赤坂さんを見つめた。「両親に反対されています」「え、なんで?」「赤坂さんは恩人ですから……。 だから、対等じゃない……から……」頭の後ろに片手を置いて困惑した顔をしている。眉間にしわを寄せて唇をぎゅっと閉じていた。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』84

    年末になり、赤坂さんは仕事に復帰した。テレビで見ることが多くなり、お母さんと一緒に見ていると気まずい時もあった。四日に会う約束をしている。メールは毎日続けているが会えなくて寂しい。ただ年末年始向けの仕事が多い時期だから、応援しようと思っている。私も年末年始は休暇があり、仕事納めまで頑張った。そして、両親と平凡なお正月を迎えていた。こうして普通の時を過ごせることが幸せだと、噛み締めている。今こうしてここにいるのも赤坂さんと両親のおかげだ。心から感謝していた。『あけましておめでとうございます。四日、会えるのを楽しみにしています』赤坂さんへメールを送った。『あけおめ。今年もよろしくな。俺も会えるの楽しみ』両親が反対していることを伝えたら赤坂さんはどう思うだろう。不安だけど、しっかりと伝えなきゃいけないと思った。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』83

    「……美羽さん。ありがとうございます」「ううん」「私も赤坂さんを大事にしたい。ちゃんと話……してみます」「わかった」天使のような笑顔を注いでくれた。私も、やっと微笑むことができた。「あ、連絡先交換しておこうか」「はい! ぜひ、お願いします」連絡先を交換し終えると、楽しい話題に変わっていく。「そうだ。結婚パーティーしようかと大くんと話していてね。久実ちゃんもぜひ来てね」「はい」そこに大樹さんと赤坂さんが戻ってきた。「楽しそうだね」大樹さんが優しい声で言う。美羽さんは微笑んだ。本当にお似合いだ。「そろそろ帰るぞ久実」「うん」もう夕方になってしまい帰ることになった。「また遊びに来てもいいですか?」「ぜひ」赤坂さんが少し早めに出て、数分後、私もマンションを出た。赤坂さんとゆっくり話すのは次の機会になってしまうが、仕方がない。本当は今すぐにでも、赤坂さんに気持ちを伝えたかった。二日連続で家に帰らないと心配されてしまうだろう。電話で言うのも嫌だからまた会える日まで我慢しようと思う。私は、そのまま電車に向かって歩き出した。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』82

    急に私は胸のあたりが熱くなるのを感じた。「占いがすべてじゃないし、大事なのは二人の思い合う気持ちだけど。純愛って素敵だね」私が赤坂さんを思ってきた気持ちはまさに純粋な愛でしかない。「一般人と芸能人ってさ……色んな壁があって大変だし……悩むよね。経験者としてわかるよ」「…………」「でも、好きなら……諦めないでほしいの」好きなんて一言も言ってないのに、心を見透かされている気がした。涙がポロッと落ちる。自分の気持ちを聞いてほしくてつい言葉があふれてきた。「赤坂さんに好きって言ってもらったんですけど、お断りしたんです」「どうして……?」「心臓移植手術が必要になって、多額な金額が必要だったんです。赤坂さんが費用を負担してくれて私は助かることが出来ました。両親が……」言葉に詰まってしまう。だけれども、言葉を続けた。「対等な関係じゃないからって……。お父さんが、財力が無くてごめんと言うので……」「ご両親に反対されてるのね」深くうなずいて涙を拭いた。「私を育ててくれた両親を悲しませることができないと思いました。それに、健康じゃないので赤坂さんに迷惑をかけてしまうので」うつむいた私の背中を擦ってくれる美羽さん。「そっか……。でも、赤坂さんは、誰よりも久実ちゃんの体のことは理解した上で好きって言ってくれたんじゃないかな」「…………」「赤坂さんに反対されていることは言ったの?」「いえ……」「久実ちゃんも、赤坂さんを大事に思うなら。赤坂さんに本当のことを言うほうがいいよ。赤坂さんはきっと傷ついていると思う。好きな人に付き合えないって言われて落ち込んでるんじゃないかな」ちょっときついことを言われたと思った。だけど、正しいからこころにすぅっと入ってくる。美羽さんは言葉を続ける。「久実ちゃんがね、手術するために日本にいない時に……。さっきも言ったけど、私、大くんと喧嘩しちゃって赤坂さんに相談に乗ってもらったことがあったの。その時から、久実ちゃんのことを聞かせてもらっていたの。赤坂さんは心底久実ちゃんを好きなんだと思うよ」必死で私をつかまえてくれる。赤坂さんの気持ちだろう。痛いほどわかるのだ。なのに勇気がない。私は、意気地なしだ。でも、このままじゃいけないと思った。勇気を出さなければ前に進めないと心が定まった。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』81

    楽しく会話をしながら食事していた。食べ終えると、大樹さんは赤坂さんを連れて奥の部屋に行ってしまう。美羽さんが紅茶とクッキーを出してくれた。二人並んでソファーに座る。部屋にはゆったりとした音楽が流れていた。自然と気持ちがリラックスする。しばらく、他愛のない話をしていた。「赤ちゃんがいるの」お腹に手を添えて微笑んでいる美羽さん。まるで天使のようだ。「安定期になるまでまだ秘密にしてね」「はい……。あの、体調大丈夫ですか?」「うん。妊婦生活を楽しんでるの。過去にできた赤ちゃんが帰ってきた気がする」美羽さんは、過去の話をいろいろと聞かせてくれた。辛いことを乗り越えた二人だからこそ、今があるのだと思う。気さくで優しくてふんわりとしていて本当にいい人だ。紫藤さんは美羽さんを心から愛する理由がわかる気がする。私は心をすっかり開いていた。「赤坂さんのこと……好きじゃないの?」「え?」突然の質問に動揺しつつ、マグカップに口をつけた。「いい人だよね、赤坂さん。きついことも言うけど正しいから説得力もあるし」「……」「実は 夫と喧嘩したことがあってその時に説得してくれたのも 赤坂さんだったの」「 そうだったんですね」「二人は……記念日とかないの?」「記念日なんて、付き合ったりはしていないので」「はじめてあった日とか……。何年も前だから覚えてないよね」ごめんと言いながらくすっと笑う美羽さん。初めて赤坂さんに会った日のこと――。子どもだったのに鮮明に記憶が残っている。まさか、あの時は恋をしてしまうとは思わなかった。こんなにも、胸が苦しくなるほどに赤坂さんを愛している。「ねえ、果物言葉って、知ってる?」「くだものことば? 聞いたことないです……」「誕生花や花言葉みたいなものなの。果物言葉は、時期や外観のイメージ・味・性質をもとに作ったもので……。果物屋の仲間達が作ったんだって」「はぁ」美羽さんは突然何を言い出すのだろう。ぽかんとした表情を浮かべた。「あはは、ごめん。私フルーツメーカーで働いていたの。なにかあると果物言葉を見たりしてさ。基本は誕生日で見るんだろうけど……記念日とかで調べて見ると以外に面白いの」「そうなんですか……」「うん。大くんと付き合った日は十一月三日でね、誕生果は、りんご。相思相愛と書かれていて……。会わな

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』80

    タクシーで向かうことになったが、堂々と二人で行くことが出来ないので別々に行く。大スターであることを忘れそうになるが、こういう時は痛感する。二人で堂々と出掛けられないのだ。……切ないな……。美羽さんは大樹さんと結婚するまでどうしていたのだろう。途中で手ぶらなのは申し訳ないと思いタクシーを降りた。デパートでお菓子を買うと、すぐに違うタクシーを拾って向かった。教えられた住所にあったのは、大きくて立派なマンションだった。おそるおそるチャイムを押す。『はい。あ、久実ちゃん。どーぞ』美羽さんの声が聞こえるとオートロックが開いた。どのエレベーターで行けばいいか、入口の地図を確認する。最上階に住んでいる大樹さん夫妻。さすがだなーと感心してしまう。エレベーターは上がっていくのがとても早かった。降りるとすぐにドアがあって、開けて待っていたのは美羽さんだった。「いらっしゃい」微笑まれると、つられて笑ってしまう。「突然、お邪魔してすみません。これ……つまらないものですが」「気を使わないで。さぁどうぞ」中に入ると広いリビングが目に入った。窓が大きくて太陽の日差しが注がれている。赤坂さんはソファーに座っていて、大樹さんは私に気がつくと近づいてきた。「ようこそ」「お邪魔します」「これ、頂いちゃったの」美羽さんが大樹さんに言う。「ありがとう。気を使わないでいいのに」美羽さんと同じことを言われた。さすが夫婦だなって思う。赤坂さんも近づいてきた。「遅いから心配しただろーが」「赤坂さん。ごめんなさい」「一言言えばいいのに」一人で不安だったから、赤坂さんに会えて安心する。「さぁランチにしましょう」テーブルにはご馳走が並んでいた。促されて座る。私と赤坂さんは隣に座った。「いただきます」「口に合うといいけど」まずはパスタを食べてみた。トマトソースがとっても美味しい。「美味しいです。美羽さん料理上手なんですね」「とんでもない。大くんと出会った頃はカレーライスすら作れなかったんだよ」「そう。困った子だったんだ」見つめ合って微笑む二人がとても羨ましい。いいなぁ。私も赤坂さんとこうやって過ごせたら幸せだろうなぁ。

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』79

    「妹が置いていった服ならあるけど。サイズ合うかな」「勝手に借りていいのかな?」「心配なら聞いてやるか」スマホで電話をはじめる。「あ、舞? 久実に服貸していい?」『えー! 家にいるの? 泊まったってことは、えーなに? 付き合ってるとか~?』ボリュームが大きくて話している内容が聞こえてしまう。「付き合ってくれないけど、まぁ……お友達以上だよ。じゃあな」お友達以上だなんて、わざとらしい口調で言った赤坂さんは、得意げな顔をしている。「……じゃあ、お借りするね」黒のニットワンピース。着てみるとスカートが短めだった。ひざ上丈はあまり着たことがないから恥ずかしい……。着替えている様子をソファーに座って見ている。「見ないで」「部屋、狭いから仕方がないだろう」「芸能人でお金もあるんだから引っ越ししたらいいじゃない」「結婚する時……だな」その言葉にドキッとしたが、平然を装った。私と……ということじゃない。一般的なことを言っているのだ。メイクを済ませると赤坂さんは立ち上がって近づいてくる。見下ろされると顔が熱くなった。「可愛い。またやりたくなる……」両頬を押さえつけたと思ったら、キスをされる。吸いつかれるような激しさ。顔が離れる。赤坂さんの唇に色がうつってしまった。「久実……愛してる」……ついつい私もって言いそうになった。「せっかく 口紅塗ったのに汚れちゃったじゃないですか」 私はティッシュで彼の唇を拭った。 すると 私の手首をつかんで動きを止めてまた さらに深くキスをしてきた。「……ちょっ……んっ」「久実、好きって言えよ」「……時間だから行かなきゃ」

  • 秘めた過去は甘酸っぱくて、誰にも言えない   ―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』78

    久実sideふんわりとした意識の中、目を覚ますとまだ朝方だった。今日は休みだからゆっくり眠っていたい。布団が気持ちよくてまどろんでいると、肌寒い気がした。裸のままで眠っている!そうだった……。また、赤坂さんに抱かれてしまったのだ。逃げればいいのに……逃げられなかった。私の中で赤坂さんを消そうと何度も思ったけど、そんなこと無理なのかもしれない。すやすや眠っている赤坂さんを見届けて、ベッドから抜けようとするとギュッとつかまれた。「どこ行くつもりだ」「帰る」「………もう少しだけ。いいだろ」あまりにも切ない声で言うから、抵抗できずに黙ってしまう。強引なことを言ったり、無理矢理色々したりするのに、どうして私は赤坂さんのことがこんなにも好きなのだろう……。もう少しだけ、赤坂さんの腕の中に黙って過ごすことにした。太陽がすっかり昇り切った頃、ふたたび目が覚めた。隣に赤坂さんはいない。どこに行ってしまったのだろう。自分のスマホを見るとお母さんから着信が入っていた。「……ああ、心配させちゃった……」メールを打つ。『友達と呑みに行くことになって、そのまま泊まっちゃった』メッセージを送っておいた。家に帰ったら何を言われるだろう……。恐ろしい。「おう、起きてたのか」赤坂さんはシャワーを浴びていたらしい。上半身裸でタオルを首にかけたスタイルでこちらに向かってきた。あれ……昨日は一人じゃ入れないって言ってたのに。なんだ、一人で入れるじゃない。強引というか、甘え上手というのか。私はついつい赤坂さんに流されてしまう。そんな赤坂さんのことが好きなのだけど、このままじゃいけないと反省した。「今日、休みだろ?」「……うん」「じゃあ、大樹の家行こう」「は?」唐突すぎる提案に驚いてしまう。「暇だったらおいでって連絡来たんだ。美羽ちゃんも久実に会いたがってるようだぞ」美羽さんの名前を出されたら断りづらくなる。優しい顔でおいでと言ってくれたからだ。「でも……服とかそのままだし……」「そこら辺で買ってくればいいだろ」「そんな無駄遣いだよ」まだベッドの上にいる私の隣に腰をかけた。そして自然と肩に手を回してくる。「ちょっと……近づかないで」「なんで?」答えに困ってうつむくと赤坂さんは立ち上がってタンスを開けた。

コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status